鳥・虫・ケモノと木の実のとりあい

スーザンが死んだ

※3000字越えの長文です。

 

アケビコノハを8月に拾ってきてから、約7週間が過ぎた。2齢か3齢か、小さかったアケビコノハは毎日たくさんのアケビの葉をむしゃむしゃと食べ、コロコロの糞をたくさん落として、みるみるうちに大きくなった。脱皮の瞬間は見逃したものの、葉っぱの裏に抜け殻を見つけることはあった。気がつくと、初めて出会ったときの3倍の長さになり、毎日そのひょうきんな姿を見るのが楽しみだった。一日一時間くらい眺めてしまうこともしばしば。

 

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出会ったばかりのころ

 

あるアメリカ人の若者がアケビコノハを見に来てくれた時に、名前をつけてくれた。その日からアケビコノハは「スーザン」と呼ばれるようになった。スーザンの性別はわからないが、ひとまず女の子の名前がついた。スーザンは名前がついたことも気にせず、相変わらずよく食べよく糞をした。

 

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日に日に大きくなるスーザン

 

ある日スーザンの住処にしていたペットボトルの内側に細い糸が一面に広がっていた。繭を作ろうとしていることを察したが、あまり成功しているとは言えない雰囲気であった。繭はできていない。望ましい住環境を整えてあげることができなくて、申し訳なく思った。スーザンはもう糸を吐く元気がなさそうにも見えた。それでも、何とかして朝になったら繭に入っているのではないかと願った。翌朝、のぞいてみるとスーザンがいない。繭に入ったか?期待したのもつかの間、底に撒き散らかった糞の上にぐったりと横たわるスーザンを発見した。繭には入れなかったようだった。できるだけ刺激を与えたくなかったが、少しカビの生えかけた糞の上ではあまりに不憫に思え、やさしく柔らかい、面積の広いリボンなどを使って、違う場所へ移した。

 

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具合が悪そうな顔に見えるスーザン

 

 

スーザンはしばらく、生きているのか死んでいるのかわからないような様子であった。たまに横たわっていた位置が変わっているのを見て、生きていることを確認した。体は張りを失い、小さくしぼんでいるように見えた。弱々しいスーザンを心配して毎日を過ごした。

 

いつものようにスーザンの様子を見に行くと、今までに見たことのないスーザンの姿がそこにあった。真っ白な、つややかな、変なものがそこにいた。スーザンは、しっかりと次の姿へと変化を遂げようとしているのだとわかり、喜びがこみ上げた。スーザンは、元気だ。

 

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白くてかわいい怪物のようなスーザン

 

真っ白なへんなものは、翌日には真っ黒なへんなものになった。蛹だ。スーザンは蛹になった。繭を作ることはできなかったけれど、ひとまずスーザンは生きて蛹になった。もう毎日あせってアケビの葉を探しに行かなくてもいいと思うと、嬉しくもあり寂しくもあった。どれくらい蛹でいるのだろうか。ネットで調べると、2週間ほどだという。2週間、特に変化のないスーザンを毎日見つめた。たまに、おしりをクルクルと動かした。スーザンは生きている。

 

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蛹のころのスーザン(もらいもの画像)
 

2週間。それは几帳面なことに、きっちりと2週間経った日であった。スーザンは殻を破り頭を飛び出させた。羽化にどれくらいの時間がかかるのだろうか。発見した時は22時を過ぎていたかもしれない。ずっと見ているわけにはいかない時間だったので、翌朝を楽しみに帰途についた。蛹の間は、入れていたかごに蓋をせずにいた。羽化をしたら飛び立ってしまうだろうかと心配した。飛び立って、蛍光灯に当たって、すぐ死んでしまったらどうしようと案じたが、一日くらいは飛び立たずじっとしているという情報を見たこともあり、蓋をせずに帰った。

 

翌朝来てみると、スーザンはいなかった。飛び立ったのだと思った。しかし、スーザンは、昨夜みたままの姿で横たわっていた。羽化に失敗した。それは見てすぐにわかった。スーザンはぴくりとも動いていなかった。羽化に失敗して死んでしまったと思った矢先、スーザンの口吻がふよふよと動いている事を発見した。スーザンは生きている。

 

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翌日になっても殻が脱げていなかったスーザン

 

偶然スーザンが殻を破った日に、わたしはブドウを食べていた。ブドウの皮をしぼって、サラシに染めものをして遊んでいたその残りカスがゴミ箱に残っていた。もう一度、それをぎゅっとしぼって、スーザンの近くに雫を落とすと、スーザンは必死で口吻を動かし、果汁を吸おうとした。スーザンは、食事をすることができるんじゃないか?そう思い、何滴も何滴も周りに果汁の雫を落とした。

 

スーザンが成虫になったらどうするの?といつか友人が聞いたとき、もちろんもといた場所に返してあげるよと言ったことを覚えている。スーザンがかっこいい羽をはためかせて遠くに飛んでいってしまう日を夢見ていた。しかしそれは叶わなかった。スーザンの羽は殻の内側にあって、開かない。スーザンは飛ぶことができない。羽化に失敗した日から数日は毎晩そのことが頭を離れず、スーザンに謝ってから眠りについた。

 

スーパーに行く用事があったので、スーザンに巨峰を買って帰った。アケビコノハはブドウを食害する。ブドウを近づけると、スーザンは4本の足でしがみついた。スーザンはその時まだ頭以外は蛹の殻をまとっていた。残りの2本の足は殻の中にあった。ブドウにしがみついたものの、スーザンは口吻で皮を突き破れないようだった。スーザンの口吻の近くに小さな穴を何カ所か開け、そこに口吻の先端を持って行ってやると、ものすごい勢いで中の果汁を吸い始めた。そんなに飲んで大丈夫?と心配するほどスーザンは長い時間ブドウの汁を吸っていた。その後、ブドウの皮を全部剥けば自分でも口吻を刺せるのではないかと思ったが、成功したのは1度しか見ていない。

 

たくさん果汁を飲んで、スーザンは排泄ができるのだろうか。体はまだ硬い殻の中にあった。下の方に空洞があればいいが、なければどうなってしまうのだろう。心配したが、スーザンは皮を剥がされそうになると激しく抵抗したので、外部から殻を破る事は少し躊躇した。躊躇したものの、このままではどのみちスーザンが死んでしまう気がして、決心して、殻を壊すことにした。

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口吻で勢いよくブドウを吸汁するスーザン

 

オペは成功し、スーザンは殻からおしりを出すことができた。案の定、中は液状の糞でいっぱいになっていた。食事ができる。排泄ができる。飛べないけれど、スーザンは生きることができる。人間が持つような哲学をアケビコノハに問うことはできない。不自由な体でも野生にかえりたいか、それともここで飛ばずに長く生きるか。

 

ある日、穏やかな風が吹いている日に、スーザンの入っている箱を窓際に置いた。気のせいかもしれないが、西日が優しくとどくその場所に置いたスーザンは気持ちよさそうに見えた。その日、その窓際に置いたまま帰ったら、翌日になっていなくなっていた。10cmもある高さを、あのスーザンが乗り越えたのだろうか?何か虫が来て連れて行ってしまったのだろうか?必死で辺りを探すと、床の隙間に転がっているスーザンがそこにいた。1m以上も上から落ちたので、さすがに死んだかと思ったが、相変わらずジタバタ動いた。スーザンは生きている。

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太陽の光を楽しむスーザン

 

スーザンは不自由な体でも、元気に10cmのプラスチックの壁を這い上ることができることがわかった。また乗り越えて、落ちて誰かに踏まれたりしないように、上にかごをかぶせることにした。スーザンは起用にそのかごを4本の足で登る。2本の一番上にある足は最近折れてしまったようだった。

 

はじめからおわりまで私自身のエゴで、スーザンは私の元にいる。実を言うと、スーザンはまだ死んでいない。しれっと言いました。もう一度言います。スーザンは、まだ死んでいない。死んでいないどころか、すこぶる元気である。アケビコノハは成虫で越冬するため、もしかしたら数ヶ月は生きる勢いである。いつか愛するスーザンが死んでしまったとき、このような文章を書くことができなくなるだろうと思い、予め書いておくことにした。とんだ虚言癖の投稿にどうぞお気を悪くされないでほしい。

 

今日のスーザンは、かごのてっぺんに登り、おしりをフリフリしている。

 

 

 

石の寝屋緑地

天気が良すぎる日はソワソワする。早起きをしていそうな友人に声をかけ、以前田んぼの調査へついて行った石の寝屋緑地へ向かう。

 

到着後一番に心躍らせてくれたのはスズメウリNeoachmandra japonica。五線譜に音符が飛び交うようなたくさんの実り。たわわわわわ!

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真っ白になる頃に必ずまた来よう。

 

田んぼは花盛り。石の寝屋・秋のタデ科祭りであった。

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ボントクタデPersicaria pubescens

ミゾソバPersicaria thunbergii var. thunbergii

ミズヒキAntenoron filiforme

チラチラと鮮やかに太陽の光を受ける小さな花が魅力的な見頃のタデ科。好き。好き。

 

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この子だれだっけか

 

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のちにネトネトするチヂミザサ

 

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のちに美味しそうな毒の実をつけるヒヨドリジョウゴ

 

 

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粋な角度からの明石海峡大橋を望む、海峡展望台までの道のりはちょうどよい運動になった。ゼーハー言いながらも気持ちよく登頂。

ソワソワして出かけて良かった。

 

ハニーハント

思い出してみると、ハニークラブに所属していた。そういえば、巣箱を設置した。ということで本日は蜂蜜をとることになった。
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設置した巣箱の構造が間違っていたために、独特な巣の形に。スペインにありそうな建築物との評。
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できたてのハニカムが美しい。
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住処を破壊され、子どもたちを奪われ、蜂にとっては散々な1日。ブンブンブン、蜂が飛ぶ。そのブンブンという羽音は子どもの頃に想像した音ではなかった。

ペロリと舐めた蜂蜜は爽やかな味がした。

木の実は上に、草は下に

木の実は順調に色づき始めている。今日はバッテリーの入った一眼レフを持っていたので、草を撮影することができた。

 

サジガンクビソウCarpesium glossophyllum 何にも似ていない独特な形が美しい。

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キンエノコロSetaria glauca もしくは コツブキンエノコロSetaria pallide-fusca 次にここへ行った時は実物を持って帰ってこよう。

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ツリガネニンジンAdenophora triphylla var. japonica 今回は引きから。可憐なサイズ感。

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ベニバナチチコグサGamochaeta purpurea 結実のホサホサとその下の薄紅色がいとveryをかし。

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ヒナギキョウWahlenbergia marginata が一輪だけ瑞々しく咲いていた。

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秋の入り口の色はちょっと控えめ。

シマサルナシを求めて

相変わらず毎日アケビコノハの動きに一喜一憂している。が、心を鬼にして木の実のことを書く。嘘です、木の実大好きです。

マタタビマタタビ属、野生のキウイことシマサルナシが見られるという、淡路島の南へ向かう。


道中、フユイチゴと思われる葉っぱを見つける。先生が実がついている事を発見。フユイチゴなら結実はまだ早いはず。これはウワサのあの子じゃないか! 

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持って帰って念のため同定したところ、やはりホウロクイチゴRubus sieboldiiのようだった。食べてみたが、特に感想はありません。そんな味。
あたりでは広い面積でこのホウロクイチゴの葉が度々見られた。鹿の食害がひどいエリアであったので、鹿が食べ残した結果かもしれない。茎には強めのトゲがあった。

 

また、このあたりはイヌビワFicus erectaも多く見られる。イヌビワが結実するために犠牲となる小さな命、イヌビワコバチの亡骸がもれなく入っていることを知ってもなお、旬の甘い果実をペロンといただいた。地元の人はこのイヌビワを“いたび”と呼んでいた。ホソバイヌビワFicus erecta var. erecta f. sieboldiiも特に区別はなく“いたび”だそう。ホソバの方は食べたがまずかった。時期の問題かもしれない。

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道に迷いながらも車で進んでいくと、視界の端に丸い物が見えたような気がした!

ゆっくりケアフリー戻りながら見ていると、

 

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ありました。シマサルナシActinidia rufaの実は樹上にぶらんとぶら下がっていた。まわりに結構な数が見えた。ただ、遠くて手は届きそうにない。


また来る。また来るから、そこでぶらぶら待っていて-

 

 

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安定のアケビさんはまだゆっくり準備中

野を歩けば木の実に出会う -九月

木の実活動のブログのはずが、イモムシばかりではないかとご指摘をいただく。まったくおっしゃる通りである。本日は美しいイラガを発見したが、ギリギリの自制心でしぶしぶ木の実について書いていこうと思う。嘘です、しぶしぶではありません。

シャシャンボとメギとイヌビワの個体を探しに野へ出ようと思い立つが、なじみがないので先生にご同行をお願いした。ひとまずシャシャンボが確実にあるところまで行ってみようと足を運ぶ。

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はじめに出会ったのはコマユミ。未熟果がおもしろシェイプ。このまま我が道を突き進んでほしい。

ナツハゼもずいぶん熟してきている。繊細な木彫り細工に漆をほどこしたような形であった。

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食べてみたらちょっと酸っぱかった。たくさん収穫できそうだったので、もう少ししてからまた来たい。

ふと田んぼのよけを見ると、ミズオオバコが点々と、空を仰いで花を開いていた。

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全反射で水面に映り込む姿にテンションが上がる。撮影しようと構えた一眼レフにバッテリーが入っていないことにテンションを下げる。


足下にはシバグリがころころ。

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ようやくシャシャンボの結実を確認した。まだ青いが、見つかって良かった。二週間後くらいだろうか。どうだろうか。気が抜けない。

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かつて整髪に用いたというサネカズラの実も発見。

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ハゼは和蝋燭の原料と教わる。

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ネズの実が高いところにあって写真も撮れなかった。ジンの香りをまた嗅ぎたい。

 

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帰り道にツリガネニンジンの釣り鐘具合を指さし確認。イヌビワとメギのことをすっかり忘れて。

アケビコノハ成長中

ペットボトルをお家にして、アケビコノハちゃんを飼育。アケビの葉っぱを手に入れなくてはと日々のプレッシャーがすごい。「あ、あ、あけ、あけび…」とうなされて目覚める毎日である。
出会った頃より、体長は3倍ほどになった。一度脱皮した痕跡は発見したが、またなさるのか。

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